2010年度 第3回国際講座開催報告

    講師 ロバート・キャンベル
    東京大学大学院総合文化研究科教授
    テーマ 「世界に映る日本文学」
    開催日 2010年10月9日(土)
    場所 城西大学東京紀尾井町キャンパス

    2010年度第3回目講義は、東京大学大学院教授で江戸中期から明治までに日本で書かれた漢詩文学が専門のロバート・キャンベル先生を講師にお迎えし、「世界に映る日本文学」というテーマで開催されました。

    現代の日本文学を代表する作家である村上春樹であるが、全世界で40ヶ国以上の言語に翻訳されて読まれている。アメリカのポピュラー文化(ロック、パスタ、テレビ、レストラン、カフェなど)が小説に出てくるため、英語で読むと日本が舞台とは思えない。英語に訳すと急に舞台がユニバースになって、どこが舞台だか分からなくなるのが特徴である。

    ロバート・キャンベル氏

    日本の文学が世界の中でどう受け入れられていたか、それを日本はどう進めていたかを歴史的に見ると、浮世絵、版画、挿し絵(絵本)がいわゆるジャポニズムと言われる、古い日本美術の代表である。「日本文学のビジュアル性」とも言えるが、挿し絵も多かったので、絵を見ているだけで内容が大体分かった。これは、マンガのような現在のポップ・カルチャーの原点になっているように思う。また、当時の小説は漢文で書かれており、それに脚色を付けて英語で欧米に紹介された。

    今、坂本竜馬がブームだが、現代の人が読んでいるのは読み易い活字になったものだけであり、その他に、まだ読まれていない、あるいは読めないものが膨大にある。(日記、手紙など)。我々はほんの少しの書物からしか学んでいない、世界でも珍しいケースである。英語では、17、18世紀の小説は今でも読めるが、日本語では原本を読むことは難しい。(日本語リテラシー)。

    約130年前の日本語表記の転換以降、日本語は歴史から学ぶことが困難になっている。日本発の科学技術は今でも世界で待たれているが、日本の文学が輸出してきた思想、文学、音楽は十分に世界に伝わっているのか、伝えようとしているのか、そこまで巻き戻して考える必要がある。

    そして若山牧水の短歌と小説「アメリカひじき・火垂るの墓」の2つの事例を紹介した。

    若山牧水の有名な短歌「白鳥は哀しからずや 空の青 海のあをにも染まずただよふ」は、人によって描く情景が異なり、日本語の曖昧さが良く出ている。村上春樹作品も、読む人の国によって舞台が置き換えられる。置き換えても、しっかりしたストーリーが読める作品が日本文学には多い。

    「アメリカひじき・火垂るの墓」は、終戦直後の神戸が舞台。災害、人災から立ち直る日本人の心も、日本文学の1つの大切なテーマである。古くは京都の荒廃を描いた鴨長明の「方丈記」に遡り、どう社会を立て直して、絆を結び直すかが描かれている。

    最後に、多くの質疑応答の中で、キャンベル先生は、日本語・日本文学はしなやかで柔軟性に富むことを述べられ、予定時間を越えて、受講者には有益な時間を過ごしていただくことができた。

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