2011年度 第4回国際講座開催報告

    講師 ソンネンベルグ・カタジーナ
    ヤギエヴォ大学東洋語学研究所 講師
    テーマ 「迷夢と悟道のはざま:樋口一葉の文学の魅力」
    開催日 2011年11月26日(土)
    場所 城西大学東京紀尾井町キャンパス

    2011年度第4回目は、ヤギエヴォ大学のソンネンベルグ先生より、「樋口一葉」をテーマにお話しをしていただきました。

    樋口一葉にとっての「書くこと」とは何か。文学と人生には、よく相関関係が見られますが、これは一葉にも通じることです。一葉にとって「書くこと」とは、「生きること」と同じであり、一葉の作品を解釈するためには、一葉の人生がどのようであったかを知ることが必要です。しかし一方、一葉は自分の経験をもとに作品を書いてはいますが、全く同じではありません。一葉の描く女主人公は、彼女と似たところがありますが決して彼女ではないのです。一葉は作品を書くときに普遍的なものを目指していました。

    一葉の代表的な作品である『たけくらべ』は、事実と空想をうまく混在させた作品となっています。一葉は、吉原遊郭近くで雑貨店を一時開いていましたが、その時の経験が『たけくらべ』の題材となっています。

    一葉の人生の物語は感動を覚えるものであり、その文学も非常に魅力的なものです。一葉の書く作品の魅力の一つは、その文体にあります。ある時、苦しい生活の中、生計を立てるために小説を書くことを決意した一葉は。東京朝日新聞小説記者の半井桃水を訪ねました。桃水は一葉の文体は新聞に掲載するには合わないので、文体を変えるよう一葉に言いました。しかし、一葉は、単に読みやすさのためだけに文体を変えることには反感を感じ、流行の文体にへつらわず、あくまでも自分の文体を守り通しました。生計を立てるために小説を書くことを選んだ一葉でしたが、お金のために自分は筆を取っているのではなく、「書くこと」自体に価値があるからこそだと信じていました。

    一葉にとって「作家であること」とは、真実を追求すること、読者を真実の世界に連れていくことでした。つまり、9歳の時に平凡な人生で終わりたくないと願った一葉にとって、「作家であること」は特別な存在であること、名誉あることでした。しかし、どんなに一葉の作品が評価されても、それは女性が書いた作品であるという物珍しさが上に立っており、一葉は一人の作家として評価されないことに、生涯悩まされていました。

    一葉の死後百年以上たった現在、その作品は、様々に解釈され、評価されながら、今を生きています。

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